ピッキングロボットの構成と動作の流れ

2024.05.21 執筆者:守谷祥史

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はじめに

インターネット通販の利用が当たり前になり、物流倉庫はかつてないほど忙しい日々を送っています。消費者は、いつでもどこでも欲しい商品を注文でき、その商品がすぐに届くことを期待しています。しかし、このような消費者の期待に応え続けることは、物流倉庫にとって大きな挑戦となっています。

EC(電子商取引)の普及によって、物流倉庫が扱う商品の数は爆発的に増加し、その種類も多岐にわたるようになったからです。そして、倉庫で働く人手は慢性的に不足しており、長時間労働や人為的なミス、生産性低下といった問題が深刻化しています。

倉庫内業務の自動化の全体像について
物流センターの業務フローや各業務プロセスの自動化を実現するロボットについては、以前の記事で解説しています。

物流倉庫向けロボットの基礎知識

特に、倉庫内作業の中でも、注文された商品を一つ一つ集めていく「ピッキング」と呼ばれる作業は、非常に多くの時間と労力を必要とするため、人手不足の影響を大きく受けています。

そこで、このピッキング作業を自動化し、倉庫全体の効率化を図るために導入が進んでいるのが、「ピースピッキングロボット」です。ピースピッキングロボットは、ロボットアームとカメラ、センサーなどを組み合わせたシステムで、人間の代わりに商品を一つずつ認識し、掴んで移動させることができます。

ピースピッキングロボットを導入することで、物流倉庫は以下のようなメリットを享受できます。

  • 人手不足の解消
    ロボットがピッキング作業を代行してくれるため、人材不足を解消することができます。
  • 作業効率の向上
    ロボットは人間よりも速く、正確に作業を行うことができるため、ピッキング作業の効率が大幅に向上します。
  • コスト削減
    人件費の削減だけでなく、作業ミスによる損失を減らし、倉庫全体の稼働率を向上させることで、大幅なコスト削減につながります。

本稿では、ピースピッキングロボットの仕組みや構成要素について、詳しく解説していきます。ピッキング作業の自動化を検討している方や、ロボット技術に興味のある方にとって参考になれば嬉しいです。

最新のピースピッキングソリューションについて
当社で実施したドイツ視察に関する報告記事はこちら。今後導入事例が増えていくと思われるピッキングロボットについて紹介しています。
LogiMAT2024視察:ピッキングロボット

ピッキングロボットの標準的な構成

ピッキングロボットは、高度な技術によって実現されています。ここでは、ピッキングロボットを構成するハードウェアとソフトウェアについて解説します。

ハードウェア

ピッキングロボットのハードウェアは、大きく分けて以下の3つの要素から構成されます。

センサー

ロボットの「目」と「触覚」の役割を果たし、周囲の環境や対象物を認識します。人間の五感でいうと、視覚や触覚に相当します。

  • 視覚センサー
    カメラが主流です。カラー情報を取得するRGBカメラに加え、距離情報を取得できる深度カメラ、3次元形状を計測できる3Dカメラなどが使用されます。

  • 力覚センサー
    対象物に触れたときの力や圧力を検知し、適切な力で把持できるようにフィードバックを行います。

  • その他センサー
    距離を測定する距離センサーや、対象物との接触を検知する接触センサーなどが、安全確保や動作精度向上に役立ちます。

ロボットアーム

人間の腕のように動作し、対象物を掴んで移動させます。

  • 関節
    複数の関節を組み合わせることで、人間の腕のように自由度の高い動きを実現します。関節の数が多いほど、より複雑な動きが可能になります。

  • アクチュエータ
    関節を駆動するためのモーターや減速機(ギア)などの装置です。ロボットアームの可動範囲や速度、精度などを決定します。

  • コントローラ
    ロボットアームに指定した姿勢をとらせるための計算やアクチュエータの制御を行います。

エンドエフェクタ

ロボットアームの先端に装着され、対象物を直接操作します。いわばロボットの「手」にあたる部分です。

  • グリッパー
    対象物を掴むための装置です。対象物の形状や材質、用途に応じて、様々な種類のグリッパーが開発されています。代表的なものに、真空吸着を利用した吸着型、2本の指で挟む平行爪型、人間の手に似た多指型などがあります。

  • ツールチェンジャー
    用途に応じて、複数のエンドエフェクタを自動で交換できるようにする装置です。例えば、ある商品は吸着型で掴み、別の商品は平行爪型で掴む、といった作業を自動化できます。

その他

  • 産業用コンピュータ
    画像処理・解析、物体認識、外部システムとの通信などロボットアームに付属するコントローラでは難しいより高度な処理を行います。

ソフトウェア

ピッキングロボットのソフトウェアは、ハードウェアを制御し、ピッキング作業を効率的かつ正確に行うための頭脳です。人間の脳に相当する重要な部分です。主な機能は以下の通りです。

画像処理・解析

センサーから取得したデータをもとに、周囲の環境や対象物を認識します。

  • 物体認識
    ピッキング対象となる商品を、形状、色、テクスチャなどの特徴から識別します。

  • 位置・姿勢推定
    対象物の3次元空間における位置と向きを正確に計算します。

動作計画

ロボットアームがどのように動くかを計画します。

  • 経路計画
    障害物を避けながら、効率的に対象物へ移動するための経路を計算します。

  • 把持計画
    対象物を安定して掴むための、グリッパーの開閉動作、把持位置、把持力を計算します。

ロボット制御

動作計画に基づいて、ロボットアームやエンドエフェクタの動きを制御します。

  • アーム制御
    各関節の角度や速度を正確に制御し、滑らかで正確な動きを実現します。

  • グリッパー制御
    対象物を傷つけずに、しっかりと掴むための適切な力加減で制御します。

その他ソフトウェア

ロボットを倉庫業務に組み込んで、より柔軟かつ高度な利用を実現するための機能を提供します。

  • データ連携
    倉庫管理システム(WMS)、倉庫実行システム(WES)、倉庫制御システム(WCS)などのシステムやコンベヤなどのマテハン機器と通信します。

  • 設定機能
    ユーザーやベンダー、システムインテグレーターによるロボットの設置や変更を補助します。

  • 管理機能
    ロボットの動作状況を監視したり、設定を変更したり、ソフトウェアの更新などロボットの運用を補助します。

ピースピッキングロボットの動作の流れ

ピースピッキングロボットは、倉庫管理システム(WMS)や上位システムからの指示を受けて、自律的にピッキング作業を行います。ここでは、一般的なピースピッキングロボットの動作の流れを8つのステップに分けて解説します。

  1. ピッキング指示受信
    ピッキングロボットは、WMSや上位システムから、どの商品をどこに移動させるのかという指示を受け取ります。指示には、商品のID、ピッキング元(棚やコンテナなど)の位置、ピッキング先(梱包箱やコンベヤなど)の位置などが含まれます。

  2. 商品の到着
    ピッキングロボットは、指示された商品の到着を待ちます。商品は、コンベヤやAGV(無人搬送車)などによって、ロボットの作業範囲内に運ばれてきます。

  3. 商品の認識
    ロボットに搭載されたカメラやセンサーが、商品の形状、大きさ、位置、姿勢などを認識します。この認識処理には、画像処理やAI技術が活用されます。

  4. 置く場所の認識
    ロボットは、ピッキング先となる場所(梱包箱やコンベヤなど)の位置を認識します。こちらも、カメラやセンサーによって認識されます。

  5. 動作計画の生成
    ロボットは、取得した情報に基づいて、商品をピッキングし、指定された場所へ移動させるための動作計画を生成します。この計画には、ロボットアームの移動経路、グリッパーの開閉動作、把持力などが含まれます。

  6. 掴む、持ち上げる、置く
    生成された動作計画に基づいて、ロボットアームが動作し、グリッパーで商品を掴み、持ち上げて、指定された場所に置きます。力覚センサーなどで、適切な力加減で商品を把持・移動します。

  7. 初期姿勢に戻る
    商品を置き終えた後、ロボットアームは初期姿勢に戻ります。これは、次のピッキング作業に備えるため、また、周囲の環境に干渉しないようにするためです。

  8. 完了通知送信
    ピッキング作業が完了すると、ロボットはWMSや上位システムに完了通知を送信します。これにより、倉庫管理システムは、次の作業指示をロボットに送ることができます。

従来技術の限界

従来のピッキングロボットは、あらかじめプログラムされた動作を正確に実行することに優れており、主に工場などの製造現場で活躍してきました。工場では、扱う商品が決まっていて、いつも同じように並べられているため、ロボットは予め決められた手順で商品をピッキングすることができました。

しかし、EC市場向けの物流倉庫では、状況は大きく異なります。倉庫には、衣料品、食品、日用品、家電製品など、形も大きさも材質もバラバラな、数千、数万種類もの商品が保管されています。しかも、新商品も次々と入荷してくるため、ロボットが対応すべき商品の種類は常に変化しています。

このような環境下では、従来のプログラムベースのロボットでは、以下のような課題に直面します。

複雑な形状・荷姿への対応

お菓子の袋やペットボトル、ぬいぐるみ、ケーブルなど、形が複雑な商品は、ロボットが認識したり、掴んだりすることが難しい場合があります。従来のロボットは、主に箱型の商品を扱うことを想定して設計されているため、不定形な商品や柔らかい素材の商品に対応することが難しいのです。

バラ積みピッキングへの対応

物流倉庫では、商品を効率的に保管するため、棚にきれいに並べるのではなく、コンテナにまとめて積み上げておくことがあります。このような「バラ積み」の状態では、商品が重なり合っていたり、傾いていたりするため、ロボットが個々の商品の位置や姿勢を正確に認識することが困難になります。

最適な把持位置・力の判断

壊れやすい商品や、表面が傷つきやすい商品を扱う場合、ロボットは商品を傷つけないように、適切な位置と力加減で掴む必要があります。しかし、従来のロボットは、商品の材質や形状に応じた最適な把持位置や力の判断を行うことが難しく、人間のように繊細な作業を行うことができませんでした。

さいごに

本稿では、ピースピッキングロボットの構成要素と動作の流れ、そして従来のピースピッキングロボットが抱えていた課題について解説しました。

ピースピッキングロボットは、センサー、ロボットアーム、エンドエフェクタといったハードウェアと、画像処理・解析、動作計画、ロボット制御などを担うソフトウェアから構成されています。これらの要素が複雑に連携することで、ピッキング作業の自動化を実現しています。

しかし、従来のピースピッキングロボットは、複雑な形状・荷姿への対応、バラ積みピッキングへの対応、最適な把持位置・力の判断といった課題を抱えています。

これらの課題を解決し、ピースピッキングロボットの性能を飛躍的に向上させる可能性を秘めているのが、生成AI技術です。近年の深層学習やマルチモーダルAI技術の進化によって、従来のロボットでは不可能と考えられていた高度な作業も可能になりつつあります。

生成AIを活用することで、ロボットはより複雑な形状の商品を認識できるようになり、バラバラに置かれた商品の中から目的の商品を見つけ出すことも可能になります。さらに、商品の材質や形状に応じて、最適な方法で商品を掴むことができるようになるでしょう。

次回の記事では、この生成AI技術によって、ピッキングロボットがどのように進化していくのか、そして未来の物流倉庫の姿をどのように変えていくのかについて、具体的な事例を交えながら解説していきます。

続きはこちら

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