LogiMAT2024視察:ピッキングロボット

著者:代表社員CEO 守谷祥史

This article is originally in Japanese. If you wish to read it in English, please use Google Translate by following this link. external-link

「物流倉庫向けロボット解説シリーズ」の第2弾である今回は、ピッキングロボットの基本を解説するとともに、2024年3月19日から21日までドイツのシュトゥットガルトで開催された「LogiMAT2024」に出展された注目のピッキングロボットについてご紹介します。


関連インサイト

はじめに

BLUEDGE(ブルーエッジ)では、テクノロジーとビジネスの融合が急速に進みつつある領域として、物流ロボット分野の動向に注目しています。

中でも在庫型物流センター(DC=Distribution Center)内のピッキング業務は、荷役作業の大きな割合を占めると言われており、今後の自動化が進む業務だと予想しています。

LogiMATについて

LogiMATは、工場や倉庫向けのハードウェア、ソフトウェア、そしてサービスを展示する、イントラロジスティクス分野における世界最大級の見本市です。

このイベントは毎年ドイツのシュトゥットガルトで行われ、 JETROの報告 external-link によれば2023年の開催では、62,343人の来場者と1,563社の出展者が参加したそうです。

2024年は、3月19日から21日までの3日間開催され、 主催者の報告 external-link によれば来場者は101,649人、出展者数は1,610社であり、出展者の約35%が中国、北米、オーストラリアを含む海外からの出展だったようです。

LogiMAT2024 logo with date external-link

当社の視察目的

当社では、ビジネスとテクノロジーの動向を把握し、お客様向けのサービス向上に役立てること目的に展示会やカンファレンスへの視察を実施しています。

今回の視察は、物流分野におけるロボット等のハードウェアおよびWMSやロボット管理システムなどソフトウェアについて、最新の技術や製品への理解を深めるため実施しました。

LogiMAT2024では、物流業界における人材不足や技術進歩を背景に自動化が進みつつある在庫型物流センター(DC)における自動化技術、中でもピッキングと自動倉庫に注目して訪問しました。

今回のインサイトでは、ピッキング業務の自動化と省人化を実現するロボットについて、LogiMAT2024における注目の展示をご紹介します。

ピッキング業務とその自動化

在庫型物流センターの業務フローの全体像とそれぞれの業務プロセスを自動化するロボットの概要については、前回の記事でご紹介しています。併せてご覧ください。

物流倉庫向けロボットの基礎知識

ピッキング業務の概要

在庫型物流センター(DC)におけるピッキング業務は、在庫保管場所に保管されている商品を特定し、顧客の注文に基づいて集める作業のことを指します。この作業には、注文された商品のリストをもとに、保管されている商品を正確に識別し、必要な数量をピック(取り出し)し、出荷準備のために集約する手順が含まれます。

Person-to-GoodsとGoods-to-Person

在庫型物流センターにおけるピッキング業務には、「Person-to-Goods(PTG)」と「Goods-to-Person(GTP)」の二つの基本的なアプローチがあります。

Person-to-Goods(PTG)
このアプローチでは、ピッキング作業者(Person)が商品(Goods)が保管されている場所まで直接移動して、必要な商品を取り出します。簡単に言えば、作業者が歩いて商品を取りに行く方式です。これは、伝統的なピッキング方法であり、特に自動化されていない環境で一般的に見られます。

複数の注文を1度に取りに行く「トータルピック」や保管エリアごとに担当する作業者を決める「ゾーンピッキング」を採用することで、ピッキングエラーを軽減したり、作業者の歩行距離を削減する取り組みが進められています。

Goods-to-Person(GTP)
一方、Goods-to-Person(GTP)では、商品(Goods)が何らかの方法でピッキング作業者(Person)が待機している場所まで運ばれてきます。つまり作業者は動かずに、商品が彼らのもとにやってくる形式です。

注文に合った商品が手元に届けられることによるピッキングエラーの低減と長時間・長距離の歩行がなくなることで作業者の負担軽減を図ることも可能です。

この方式は、人ではなく商品が動くことを前提とすることから、ある程度の自動化が想定されます。このアプローチの一例として有名なのが、Amazonが使用している棚搬送型のAGV/AMRです。これは、AGVやAMRが商品が格納された棚を、注文の内容に合わせて、作業者が待機するピッキングステーションまで持ってくるシステムです。このようなAGVやAMR以外にもコンベヤシステムや自動倉庫システムもGTP方式を実現する方法として含まれます。

棚搬送型AGV/AMRのイメージ:
ロボット2600台が棚自在に動かす、アマゾン最先端倉庫の秘密 external-link (2023年09月25日)

ピッキング業務自動化のトレンド

前回の記事でも概要はお伝えしている通り、Person-to-Goods(PTG)方式におけるPA-AMR(Picking Assist AMR)、Goods-to-Person(GTP)方式における商品の搬送を担うコンベヤ、棚搬送型AGV/AMR、自動倉庫と商品を取り出して別の箱やコンベヤに移し替えるピッキングロボットが登場しています。

前回の記事:
物流倉庫向けロボットの基礎知識

このようなGoods-to-Person(GTP)のPerson、つまりピッキング作業者をロボットに置き換えたGoods-to-Robot(GTR)が登場しつつあります。

Goods-to-Robot(GTR)
Goods-to-Robot(GTR)は、Goods-to-Person型をさらに一歩進めた形の業務方式といえます。

Goods-to-Personが商品(Goods)がピッキング作業者(Person)のもとまで運ばれてくるのに対して、Goods-to-Robotはその言葉通り、商品(Goods)がロボット(Robot)のもとまで運ばれてくる業務方式になります。

コンベヤなどのマテハン設備、棚搬送型AGV/AMR、バケットやコンテナ搬送型AGV/AMRで運ばれてきた商品を掴んで、別のバケットやコンテナに移し替えるロボットは、ロボットが取り扱う単位に応じて、「ケースピッキングロボット」や「ピースピッキングロボット」と呼びます。

これは、物流業界において最小の商品単位を「ピース」、ピースをいくつかまとめて梱包した単位を「ケース」と呼ぶことに由来し、そのロボットがどの単位の商品を扱うかで呼び方が変わります。

一般的に、ピースはケースに比べて、商品の形状がより複雑かつ多様なため、ロボットによる自動化の難易度はピースピッキングの方が高いと言われています。細かい話ですが、ケース単位の場合、一度に5-20個の商品を扱えるという点でも、ケースピッキングの方が効率が良く、費用対効果の観点で見ても、ピースピッキングの自動化のハードルは高いと言えます。

後段の「LogiMAT2024 注目のピッキングロボット」で紹介するSereactやnomagicは、「ピースピッキングロボット」のカテゴリに属するソリューションです。

Goods-to-Robotを実現するピッキングロボットについては、ロボットシステムを構成するハードウェアやソフトウェアの解説と実際の動作の流れを別のインサイトで解説しています。

ピッキングロボットの構成と動作の流れ

また、近年ChatGPTをはじめとした生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)の登場によるピースピッキングロボットへの応用も模索されています。

VLM/LLM活用によるピッキングロボットの進化

このような技術的な進歩により自動化できる作業は増えていますが、技術的な課題や投資対効果(ROI)が見合わないなどのコスト面の課題から、一部の先進的な大規模倉庫などでの採用に留まっているのが実情です。

一方で、ピースピッキングロボットは、マテハン設備やAGV/AMRによって実現したGoods-to-Personの次の段階として、労働力不足、人件費の高騰による投資対効果の高まりを背景に、各メーカーが積極的に開発を進めており、物流倉庫の完全自動化の実現に向けてその動向を注視していくべきと考えています。

LogiMAT2024 注目のピッキングロボット

今回視察したLogiMAT2024では、アーム型の産業ロボットや協働ロボットに吸着パッドやグリッパー(ロボットハンド)と画像認識技術を組み合わせたり、Person-to-Goods方式を想定してAGVやAMRにアーム型ロボットを組み合わせて自律走行できるようにするなど、各社様々なアプローチが提案されていました。

今回は、当社メンバーが注目したピッキングロボットを3つご紹介します。

BRIGHTPICK

BRIGHTPICKの公式Webサイト external-link

まずは、LogiMAT2024で「Best Product Award」を受賞したBRIGHTPICKをご紹介します。

Brightpick Autopicker wins Best Product Award at LogiMAT 2024 external-link

この企業は、3Dビジョンシステムを開発するPhotoneo社の子会社として2021年に設立されました。BRIGHTPICKでは、Photoneoの技術を活かして、Goods-to-Person方式のピッキングロボットを開発しています。

多くのGoods-to-Personを実現するロボットが商品を保管する在庫コンテナをピッキングステーションまで運び、作業者がピッキングステーションで商品を揃えていく対し、BRIGHTPICKのロボットは保管棚の前で在庫コンテナから必要な商品を必要な数量取り出して、商品が揃った状態のコンテナを運んでくる点が特徴的であるため取り上げました。

1注文を1コンテナに集める「シングルピッキング」を採用することで、仕分けなどが不要となり後続工程での人の介在を減らせそうです。一方で注文件数が多く、注文頻度に偏りがあるケースでは、複数の注文の商品をまとめてピッキングする「トータルピッキング」を採用することでさらなる効率化が期待できそうです。

BRIGHTPICKは、Photoneoの3Dカメラ、スカラロボットアーム、保管棚からコンテナを出し入れする機構、そして保管棚やピッキングステーション間を移動するAMRを組み合わせることで、この革新的なピッキングソリューションを実現しています。

写真1:LogiMAT2024 BRIGHTPICK

Sereact

Sereactの公式Webサイト external-link

2021年に設立されたSereactは、Goods-to-Person方式で運ばれてきた商品を別のコンテナやコンベヤに移し替えるピック&プレースを行うロボットシステムを開発しており、上記で解説した「Goods-to-Robot(GTR)」をターゲットとしてソリューションを提供しています。特に、多様な形状を取り扱うピースピッキングにおける画像認識、エンドエフェクター(ロボットの「手」や「指」)、およびロボットを制御するソフトウェアに特に強みを持っています。

ピースピッキングの自動化を実現するロボットシステムの構成とロボットシステムがピッキングを行う流れについては、以下の新サイトで解説していますので、併せてご覧ください。

ピッキングロボットの構成と動作の流れ

筆者がSereactのLogiMAT2024における展示で特に注目したのは、エンドエフェクターの形状を商品に合わせて変化させる機能です。人が物を掴む際に手の形や指の動きを変えるように、Sereactのロボットも商品の形状や材質に応じてエンドエフェクターを変形させます。これにより、一つのエンドエフェクターで幅広い商品を効率的に扱うことができ、作業の柔軟性と速度を向上させます。

下記の写真では、袋状の対象物に対して大小3つ(大2つ、小1つ)の吸着パッドの全てを使って吸着しています。吸着可能な面積が広い商品はより多くの吸着パッドを使い、吸着可能な面積が狭い商品はより少ない吸着パッドを利用します。これを自動で判別して使い分けていました。

写真2:LogiMAT2024 Sereact Pick and Place robot

Sereactでは、この技術を用いて自動倉庫であるAutoStoreやKardexから商品を取り出すソリューションやコンベヤで流れてきた商品をピッキングするソリューションを提案しています。AutoStoreは日本でも導入事例が多くある自動倉庫システムなので、Sereactのソリューションを日本で目にする可能性もあります。

Sereact for AutoStore external-link

さらに、Sereactは「PickGPT」という、人間の言葉での指示に従ってピッキングを行う技術も展示していました。チャット形式のユーザーインターフェースを通じて、ロボットに指示を与えると、指示通りの商品をピック&プレースします。多種多様な物体の特徴を大量の文章から学習しており、未知の商品でも正確にピッキングする能力をもっているそうです。

写真3:LogiMAT2024 Sereact PickGPT robot

PickGPT external-link

近いうちに日本での導入予定もあるようなので継続的にウォッチしていきます。

※エンドエフェクター:ロボットアームの先端につけるロボットハンド、吸着パッドなどロボットが物を扱うための部品であり、人の「手」や「指」にあたる

nomagic

nomagicの公式Webサイト external-link

nomagicは、2017年に設立された会社で、Sereactと同様、自動倉庫システムやコンベヤシステムから供給される商品をピック&プレースするソリューションを提供しています。

写真4:LogiMAT2024 nomagic robot

LogiMAT2024では、AutoStoreにnomagicが開発した独自ポートを組み合わせ、画像認識と4種のエンドエフェクターを使い分けるロボットによるでもを展示していました。4種のエンドエフェクターのうちの1つは、Sereactの可変エンドエフェクターのように商品のサイズや形状によって自動で変形するものでした。

写真5:LogiMAT2024 nomagic end effectors

nomagicのデモの最大の特徴は、AutoStoreを在庫保管とピッキング後の保管の両方に活用する点です。商品をAutoStoreから取り出し、注文ごとに別のコンテナに商品を揃えていきます。商品が全て揃ったらそのコンテナをAutoStoreに格納します。

この方式を採用することで、夜間のうちにロボットによるピッキングを行い、日中はすでに注文単位に揃っているコンテナを人がAutoStoreから取り出すだけで済むため、24時間稼働の高効率な倉庫運営が可能になります。

現在はプレース側のコンテナの分割には対応しておらずシングルピッキングとなっているようでしたが、プロダクトマネージャーの話では、将来的にはプレース側コンテナを分割したマルチピッキング対応もロードマップに含まれているとのことでした。

AutoStoreのような高密度保管と無人ピッキングを組みわせた在庫型物流センターの24時間稼働は、日本でも有力なソリューションになりそうです。すでに複数の試験的なプロジェクトが進んでいるとのことですので、今後が楽しみですね。

公式Webサイトには今回展示されていた(a)独自ポート、(b)AutoStoreを在庫保管と出荷バッファに使う、という構成については画像がありませんでした。本記事が少しでも参考になれば嬉しいです。

nomagicや日本のスタートアップである ROMS external-link が提案する自動倉庫を在庫保管と出荷待ちの滞留場所としての両方で利用し、ピースピッキングロボットを組み合わせたGoods-to-Robot方式は、中小規模の倉庫における完全自動化の一つの姿になると筆者は考えています。

自動倉庫で完結するマテハン設備にピースピッキングロボットを組み合わせることで、(A)自動倉庫による高密度保管、(B)24時間稼働による処理能力向上、(C)システムのシンプル化による導入期間の短縮が実現できると思われます。

さいごに

本記事では、LogiMAT2024における注目のピッキングロボットとして、BRIGHTPICK、Sereact、nomagicといった注目のピッキングロボットのソリューションを紹介しました。

近年のAIやロボットに関する技術の進歩によって、自動化できる作業が広がって来ており、ロボットによる自動化は労働力不足や人件費高騰に対する解決策として重要な選択肢の一つになってきます。

特にピッキング業務は在庫型物流センター(DC)において、最も人手がかかる業務と言われており、自動化の効果もそれだけ大きい分野です。この領域の自動化による効果を最大化するためには、自社の倉庫の商品特性や出荷特性の分析と、自社のニーズにあったソリューション選びがポイントになります。

この記事が、先進的な取り組みやソリューションを知り、自社が目指すピッキング業務のあるべき姿と自動化について、考えるきっかけになれば幸いです。

物流ロボットシステム導入コンサルティングについて

倉庫内業務とロボット技術に関する知見を活かし、物流拠点へのロボット導入プロジェクトをサポートしています。ロボット導入計画の策定、現状の分析、導入後の業務設計、最適なロボットの選定、プロジェクト管理、導入後の業務改善に至るまで、一貫したサポートを提供します。


物流ロボット関連のインサイト

当社について

BLUEDGE(ブルーエッジ)では、 「あるべき姿」をともに描くコンサルティング「あるべき姿」をカタチにするシステム開発 を通じて、お客様の戦略策定から実行までを一貫体制でご支援しています。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)会員。

著者プロフィール

守谷祥史(Shoji Moriya)

BLUEDGE合同会社 代表社員CEO。15年以上にわたり製造業、小売・流通業、物流業などを中心に幅広い業界に対する事業/IT戦略の立案と業務改善、システム導入など実行に関するコンサルティングに従事。現在は、主にサプライチェーン・物流分野におけるソフトウェア、クラウド、AI、ロボティクスなどテクノロジー活用に関するコンサルティングとシステム開発を専門としている。

著者:代表社員CEO 守谷祥史

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